近年、組み込みソフトウェア開発の現場では、APIを利用した開発が主流となりつつあります。しかし、これに伴い、「べた書き開発の経験を持つエンジニアは希少価値が高いのか?」あるいは「べた書きはもう需要がないのか?」と疑問に思う方も多いでしょう。
結論から言えば、べた書きの経験は希少性を持つ場合もありますが、価値が発揮される領域は限定的です。本記事では、べた書き開発の意義と現代における需要について解説します。
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べた書き開発のスキルの価値
べた書き開発の経験は、特定の場面で重要な武器となります。以下に、その具体的な価値を説明します。
1. システムの根幹を理解できる
べた書きは、ハードウェアの動作やソフトウェアの仕組みを深く理解するための貴重な経験です。APIが隠しているハードウェア制御の本質を知ることで、システム全体の最適化が可能になります。
活かせる場面
- デバッグやトラブルシューティング: APIやライブラリが原因の問題を切り分け、解決する能力は、べた書き経験者の大きな強み。
- 新しいデバイスやプロトコルへの対応: APIがまだ提供されていない新しい技術に取り組む際に活躍。
2. 特定の業界で希少価値を持つ
APIベースの開発が増える中で、べた書きを知るエンジニアの数は減少しています。そのため、以下のような分野では高い評価を受けることがあります。
活かせる分野
- リアルタイムシステム: 高速性や正確性が求められるシステムでは、べた書きでの最適化が必要。
- 安全性が求められるシステム: 自動車や医療機器などでは、APIに依存しすぎず、制御の細部を把握することが重要。
- レガシーシステムの保守: 既存のべた書きコードの解析や修正が求められる場面。
3. 将来のAPI設計に寄与する
べた書き開発を経験したエンジニアは、API設計やライブラリ開発において、現場のニーズを的確に捉えることができます。
貢献できる場面
- 新しいAPIやフレームワークの設計。
- 現場の課題に即したツールやライブラリの開発。
べた書きの需要が減少している現実
一方で、べた書き開発の需要が減少しているのも事実です。以下に、その背景を説明します。
1. APIやライブラリの進化
近年のAPIやライブラリは非常に高性能で、ほとんどの機能を抽象化して提供しています。そのため、多くの場面でべた書きが必要なくなりつつあります。
例
- 汎用的な通信プロトコル(I²CやSPIなど)は、APIでほぼすべてがカバーされる。
- 各種センサーやデバイスのドライバが標準化されており、直接制御の必要性が低下。
2. 生産性の重視
市場の要求するスピードに応えるためには、効率的な開発が不可欠です。APIを活用することで、短期間での開発が可能になるため、べた書きは敬遠されがちです。
3. 若手エンジニアの教育方針の変化
最近の教育やトレーニングでは、APIやフレームワークの使用に重点が置かれています。ハードウェア制御の細部まで教えることが減り、べた書きを学ぶ機会そのものが少なくなっています。
べた書き経験は意味がないのか?
べた書きの経験がすべて無意味というわけではありません。その価値は以下のように変わっていくと考えられます。
希少価値としての需要は残る
APIだけで開発しているエンジニアには、ハードウェアに近い層での問題解決が難しいことがあります。べた書きを知るエンジニアは、そのようなギャップを埋める存在として評価される可能性があります。
汎用性は低下
一方で、べた書きが必要とされる場面は、一般的なプロジェクトでは減少しています。多くのエンジニアはAPIベースでの開発だけでも十分活躍できます。
今後のキャリア戦略
べた書き経験を持つエンジニアが価値を高めるためには、以下のようなキャリア戦略を取ることが有効です。
1. API開発スキルとの組み合わせ
べた書きの知識を活かしつつ、APIやフレームワークを活用するスキルを磨くことで、幅広いプロジェクトで活躍できます。
2. ニッチな分野を目指す
リアルタイム性が求められる産業や、安全性重視の分野(自動車、航空宇宙、医療)でのキャリアを選ぶ。
3. 教育や設計にシフト
後進の育成や、API設計など上流工程に携わることで、べた書きの知識を活かした影響力を発揮する。
まとめ
べた書き開発の経験は、需要が減少しつつあるとはいえ、特定の分野や場面では今後も重要なスキルであり続けます。ただし、現代の開発環境においてはAPIを活用した開発が主流であり、べた書きだけでは生き残れないのも事実です。
希少スキルとして活用しつつ、最新の技術やツールを取り入れていくことが、これからの組み込みエンジニアに求められる柔軟性と言えるでしょう。